病の起源(3)日常生活の問題

精神的負担は病への近道 体のこと

事故、怪我、感染症、過度の冷えや暑さなどの目立った原因はなくても、私たちの体は調子が悪くなります。そしてそれが続くと病につながっていきます。病を引き起こす原因とは何でしょうか。

(この記事は「病の起源(2)食事の問題」の続きです)

病を引き起こすもの

今までの記事で、病とは次の2つの状態であり、

  • 体の形や構造が変化している
  • 体の働きが異常である

またこれらを引き起こす原因の一つとして「食事の問題」について触れました。今回はもう一つの「日常生活の問題」に注目していきます。

病の原因のチャート図

日常生活の問題

先の「食事の問題」は、病気の状態である「形や構造の変化」と「働きの異常」のどちらとも関係が深く、これらを引き起こす原因となります。今回見ていく「日常生活の問題」は「働きの異常」と関係が深く、これを引き起こす「正気(せいき)の消耗」の原因となります。

体の構成

正気については、以前の記事「健康について(1)健康とは形、働きが正しいこと」に書いています。私たちの体は、物質的な体と気的な体が合わさってできていて、例えば心臓も、物質的な心臓と気的な心臓が重なっています。そして正気は東洋医学で伝えられる体を動かすエネルギーで、気的な体に正気が十分含まれていれば、その部分が正しく動きだします。つまり私たちの体を動かすには正気が必要なのです。

(気についてはこちらにもまとめています。タグ「気」のインデックスの「気について(1)〜(6)」)

心臓の図

正気は主に食事によって体に取り入れられます。ですが日常生活に問題があると、せっかく取り入れた正気を無駄に消費することになります。そして正気が足りなくなると体の働きがおかしくなって「働きの異常」を引き起こし、病へとつながっていくのです。

日常生活で正気を消耗する原因として、不摂生と精神的負担が挙げられます。

不摂生

体を動かすのには正気が必要ですが、では私たちの体はどんな時に正気を使っているのでしょうか。その答えは「どんな時でも正気を使っている」です。呼吸をする時にも、心臓を動かす時にも、テレビを見る時にも、あれこれ考える時にも。生命活動を維持するために体が行う働き(生命維持活動)にも、私たちが意識的に行なっていることにも、どちらにも正気は使われています。正気を無駄遣いしないためにはどうすればいいのかというと、生命維持活動で使う分を減らすことはできないので、意識的に行う分を減らしていけばいいことになります。とはいえ、家事や仕事をしないわけにはいけませんし、仕事以外にも楽しいことも必要です。ただこういった仕事や余暇などの活動が度を過ぎてくると、正気の無駄遣いに繋がります。日々の生活で正気の無駄遣いとなりやすいものをいくつか挙げてみます。

夜更かし

私たちの体は昼に活動して夜に寝るようにできています。就寝中は体のほとんどの器官の活動を下げて、体を休めるとともに、傷ついたところの修復を行います。この大切な時間帯に起きて体を使い続けるのは、正気の無駄遣いとなるだけでなく、体の傷をそのまま翌日に持ち越すことになります。傷ついた状態では本来のパフォーマンスは出ませんので、翌日はより多くの正気を使うことになり、さらに多くの正気を消耗することになります。夜更かしは体にとっていいことはありません。

就寝時間にはいろいろな意見があり、いまだに研究が進められていますが、経験的には遅くとも午後11時には床に就くのがいいように思います。睡眠時間についても様々に言われますが、最低6時間は必要ではないでしょうか。「6時間寝ていれば午前2時に寝てもいいの」という考えもありますが、そうではなくて、やはり午後11時ごろに寝るのがいいように思います。私たちの体は太陽の運行に影響を受けていますので、就寝時間をシフトするのは難しいように思います。家庭の事情や夜勤の仕事で夜に寝られないという方もおられますが、できるだけ環境を整えて、就寝時間を調整するのがいいように思います。

電子機器(スマホ、パソコン)

近年スマホやパソコンなどの電子機器が身近になってきました。スマホは手軽で便利ですし、いつでも手が伸びてしまうという方も多いのではないでしょうか。ですがこういった電子機器は体に負担となる電磁波を放射しますので、その影響が気になります。電磁波の放射量については各国で基準が定められていて、どの製品も安全性は確認されていますが、長時間使用すると正気を多く消費することになります。

電磁波の影響は電子機器からの距離が離れれば小さくなります。ですので手に持って使うスマホは正気の面ではお勧めできません。スマホを使うのであればできるだけ短時間にして、調べ物などはパソコンを使うようにするのがいいと思います。そしてパソコンも必要以上に長時間使うことがないように気をつけましょう。

目の使いすぎ

目で使う正気は東洋医学では「腎気(じんき)」に分類されています。一言で言うと腎気は腎臓に貯蔵されている正気で、目を使うと腎臓の気が目にやってきて消費されます。長時間目を使って腎気が少なくなると、同じく腎気に潤されている「首」あたりの正気が少なくなって首が凝ってきたりします。目を使い過ぎて首が凝るのにはこういう理由があるのです。

体の外からの情報を脳に伝える「五感」の中で目からの情報量が圧倒的に多いのは想像しやすいと思います。それだけ目は活動量が多く、つまり多くの正気を消費しているのです。目を使いすぎるというのはそのまま正気を使い過ぎていることになります。ですので必要以上に目を使うことがないように気を付けるのも正気の無駄遣いを防ぐポイントです。そのような点でも夜更かしを控えて、またスマホやパソコンを使い過ぎないようにするのがお勧めです。

寝不足
考えすぎ

脳の重さは全身の2%ほどですが、全身の血流の実に15%が脳で消費されます。とてもエネルギーを必要とする器官であり、それだけよく働いているということです。正気の面から見ても脳は多くの正気を消費しています。ただでさえ正気喰いの脳により負荷を掛けると、やはり正気の無駄遣いになってしまいます。

脳にとって大きな負荷になるのは「考えごと」です。特に人間関係の悩みとかですと、過去の自分の経験や知識を総動員したりして、脳はフル回転になります。また考えごとが厄介なのは、終わりがないことです。考えごとの多くは「なかなか解決できないこと」ですので、ぐるぐると同じことを考えてしまい、最終的にどこにも辿り着きません。そして永遠に考えてしまう、というぐあいに正気を消耗し続けることになります。頭を使う仕事(研究者、作家など)に就かれている方の多くが痩せているのには、脳で消費する正気が多いために体に蓄える分が少なくなる、という一面もあります。

考えごとをしないようにするのはなかなか難しいですが、考えごとをストップさせる方法はあります。それは、考えごとに気づいたときに「手放す」ことです。どうせ答えは出ないので「まあいいか」と手放して、そこから立ち去るようにします。考えないようにする、というよりは、考えごとに焦点を合わさない、というイメージです。なかなか難しいですが、練習してみる価値はあると思います。

暴飲暴食

一般的に暴飲暴食は体に良くないと言われていますが、正気の面から見ても、正気を余計に消耗するお勧めできない行為です。私たちの体は食べ物を消化、吸収するのにも正気を使っていて、暴飲暴食するとそれだけ多くの正気が必要となります。さらにアルコールなどが入るとアルコールの解毒にも正気を使うことになります。

食事については良く言われるように、良く噛んで、腹八分目というのが理想です。加えてコーヒーやアルコールなどの嗜好品は適度に留めるのがいいでしょう。

過度の〇〇

ここまで読んでいただければなんとなく想像がつくと思いますが、正気の無駄遣いに繋がるのは、「どんなことでも程度を超えた場合」ということになります。食べ過ぎ、飲み過ぎ、考え過ぎ、勉強しすぎ、運動しすぎ、長風呂、長電話、長時間のネットサーフィン、テレビゲームのしすぎ、などなど。とはいえ、仕事の山場、受験勉強などは仕方がありません。そういった時は、そのほかの部分で無理をしないように気を付けましょう。また、楽しみとして時々やりすぎるのはいいと思いますが、問題となるのは習慣的にダラダラとやりすぎることです。何事も物足らないくらいにとどめて、節度ある生活習慣を身につけるのが正気の無駄遣いを防ぐためにはいいと思います。

精神的負担

精神的負担は先ほどの「考えすぎ」と深く関わり、正気を多く消費します。ただ精神的負担がない方はほとんどいないと思いますし、誰しも少しは抱えているものです。精神的負担というと、悩み、不安、心配ごとなどになると思いますが、多くは「自分の理想と自分の現実とのギャップ」に焦点を当てることから生まれてきます。具体的な内容はほぼ4つに絞られ、お金、人間関係、健康、夢ではないでしょうか。

自分の現実を理想に近づけるためにあれこれ考え過ぎたり、イライラしたり、ストレスを抱え込み、そして正気を消費することになります。またこれらが激しくなると、怒り、憎しみ、焦り、恐れなどに変化してさらに多くの正気を消耗し、それだけではなく、激しくなった否定的な感情は正気の流れを悪くして、滞った正気は体を傷つける邪気へと変化していきます(健康について(1)健康とは形、働きが正しいこと「正気の流れを悪くするもの」)。このプロセスは病への近道のように感じます。できるだけこの状態は避けたほうがいいでしょう。

精神的負担は病への近道

精神的負担がそれほど大きくない場合は、先の「考えすぎ」の対応で良いと思います。ただ激しい状態となってきた場合は、早めに取り除いた方が良いと思います。そのためには、自分の理想か現実を(多くの場合は両方ともを)変えていくことになります。一人で抱え込むよりは、信頼できる人に相談するのがいいでしょう。理想と現実を客観的に捉えて、自分の置かれている状況からどう変えていくのが良いか考えていきます。理想を変えるのであれば、目標を少し下げて、できそうなところを選んでいくことになります。たいていの場合はこちらの方が外部に及ぼす影響も少なく、すぐに取り掛かることができるのでお勧めです。ただ「自分を変える」ということなので、人によっては簡単ではないかもしれません。

現実を変えるのであれば、自分を取り巻く環境を変えることになります。職場を変える、学校を変える、居住地を変える、パートナーを変える、などです。こちらは自分の周囲に影響を及ぼすことになりますので、慎重に進める必要があります。できるだけ一人で考えずに誰かに話を聞いてもらいましょう。すぐに結論を出す必要があるかも良く考えます。状況は刻一刻と変化していきます。現状維持で環境が変わっていくこともありますし、状況が変わって理想の形が変化することもあります。慎重に状況を見極めながら進めることをお勧めします。

実際のところは、環境だけを変えても、周りの配役が変わるだけであまり状況が好転しない場合が多いように思います。結局多くの場合は、環境と自分自身の両方ともを変えていく必要があるように思います。手順としては、まず「自分を変える」ことを行い様子を見ます。すると環境に変化が起こることがあります。新しい環境が自分の理想に近いものであればそれでOKですし、そうでなければもう一度「自分を変える」か、それとも「環境を変える」か考えていく、という具合に進めるのがいいように思います。詰まるところ、自分自身が精神的に成長していくのが解決の早道になるように思います。(続く)