農薬と食品添加物は、私たちの生活に広く浸透して、ここ数十年に渡り使用されています。これらに含まれる化学物質の安全性については、様々な試験が行われており、問題ないとされています。ですが、毎日の食事でこれらの化学物質を取り続けた時に、何十年後に、また次の世代に、本当に問題はないのでしょうか。
このブログでは体のこと、病気のこと、また健康的な生活について、私の個人的な意見をまとめています。以前の記事でも、どのような食材が体にいいのかについて触れ、その中で、農薬と食品添加物を含んだ食材は控えた方が良い、と何度か書いています。この記事では、なぜそう思うのかの理由として、農薬と食品添加物の問題点をもう少し詳しく見てみます。
農薬と食品添加物の安全性試験に対する疑問
農薬は、野菜や果物などの農作物の病気を防いだり、害虫を駆除することで、生産物の品質を上げたり、収穫量を増やすために使用されます。食品添加物は、食品の賞味期限を長くしたり、味や風味を変えたり、色や食感を変えたりするという目的で使われます。そして農薬や食品添加物には、それらの目的のためにさまざまな化学物質が含まれています。
これらの化学物質は本当に安全なのでしょうか。長く取り続けた時に、体には何も影響はないのでしょうか。この疑問に対する答えですが、私は安全とは言い切れないと思っています。
なぜそう思うのかというと、それは、十分に信頼できる試験が行われていないからです。では、現在行われている試験の問題点はどこにあるのでしょうか。
動物実験しか行われていない
一番大きな問題は、動物実験しか行われていないことだと思います。私たちの体への影響を確認する試験のはずなのに、人間の体では何も確認されていないのです。
実際に行われている、農薬と食品添加物の安全性試験の項目を次に示します。
農薬の安全性試験の項目
独立行政法人 農林水産消費安全技術センター「農薬の登録申請において提出すべき資料について(https://www.acis.famic.go.jp/shinsei/6278/6278_20240401.pdf) 」より抜粋
食品添加物の安全性試験の項目
厚生労働省「食品添加物の指定及び使用基準改正に関する指針(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syokuten/960322/betu.html)」より抜粋
どちらも多くの項目があります。農薬と食品添加物で異なる試験項目もありますが、一部は共通しています。そして実際の試験の内容については、OECD(経済協力開発機構)のガイドラインで示されており、それに従った試験が行われています。
これらの試験は、ラットやマウスなどの実験動物を使って行われます。餌に混ぜて農薬や食品添加物を与えて、影響が出なかった時の1日の摂取量を無毒性量(NOAELと呼ばれます)として見積もります。そしてNOAELの1/100を1日摂取の上限量(ADIと呼ばれます)と決めて、これを元に農薬や食品添加物の使用量を決めています(一般的にはADIよりも低い値に設定します)。この方法は一見問題がなさそうですが、よく考えてみると、私たちの体への影響をラットやマウスで調べることができるのかという、先に挙げた疑問が湧いてきます。
ラットもマウスも私たちと同じ哺乳類ですが、体の構造や内臓の働きなどは完全に同じではありません。異物に対する感受性も同じではないので、化学物質に対する反応も異なることが考えられます。ここ数十年、化学物質過敏症やシックハウス症候群など、比較的低濃度でも、ある環境汚染物質に対し影響を受けやすい人々(高感受性集団)が存在することが明らかになっています。また内分泌撹乱物質のように、低濃度でも健康被害を引き起こす可能性のあるものも存在しています。そういった中で、私たちの体への影響を動物で確認しようというのは、心許ないように感じます。
農薬や食品添加物の他にも、体に化学物質を取り入れるものがあり、医薬品はその代表的なものです。医薬品は動物実験の後、人間の体で何度かのフェーズに分けて慎重に試験が行われます。ですが農薬や食品添加物では人間での試験が行われずに、動物実験だけで問題ないとされているのです。
先に示した安全性試験の項目は多岐に渡り、現在までの科学的知見を反映したもののように思われます。しかしながら、動物実験のみで確認されているという点に、不十分さを感じてしまいます。医薬品で行われている試験のノウハウを活かして、農用や食品添加物でも人間の体で安全性を確認するべきではないでしょうか。
認知機能の試験は行われていないかもしれない
また実際の試験の内容に関しても、少し不安が残ります。一般の動物実験では、神経伝達の異常を確認するために、不安感を調べる行動実験(高架式十字迷路試験、オープンフィールド試験)が行われています。これらは、私たちの体に当てはめると、ADHDや多動などの発達障害や、認知機能の異常を確認することができる試験となります。ですが農薬や食品添加物ではそういった試験が行われていない可能性があります。
OECDがまとめている、化学物質の発達神経毒性の調査に特化したテストガイドライン(OECDテストガイドライン426号:https://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/oecd/tgj/tg426j.pdf)には、試験後の確認項目として、実験動物(ラットやマウス)の体重、脳の重量、脳の形態異常、 歩行の異常(よろめき歩行、歩行失調など)、学習検査、などを挙げています。この中でADHDや発達障害に関わってくるのは学習検査の項目になりますが、そこには具体的な試験の内容については何も書かれておらず、試験に求められる条件と、簡単な空間学習・作業記憶の試験の例が挙げられているだけです。これらの試験では、歩行に異常がある、痙攣や麻痺があるといった、重篤な脳神経系の異常を見つけることはできても、先の行動実験のように、ADHDや多動などの高次の脳神経機能の異常を確認することはできません。
実際にどのような試験が行われたのか、確認したいところですが、農薬については、申請時に農薬メーカーが農林水産庁に提出した安全性試験の内容や結果は、非公開とされています。食品添加物については、私の調べた限りでは見つけることができませんでした。
このように、農薬や食品添加物の安全性試験では、OECDのガイドラインに従う限り、発達障害や認知機能の異常を検出できる試験は行われていない可能性があります。
農薬と発達障害の関連性
ただ、農薬や食品添加物は少なくとも数十年は使われています。それで大きな問題が起きていないのだから大丈夫なのでは、という意見もあります。
確かに、現在使われている農薬や食品添加物によって、体調に変化が出たという事例はあまり耳にしません。ただそれは、口にしてすぐに(〜数日間のうちに)変化が起きた例が少ないということだと思います。摂取してすぐに変化が起きれば、因果関係がわかりやすいので、問題として取り上げられますが、摂取しても体調に目立った変化がなく、数年取り続けることで大きな変化がある場合には、因果関係がはっきりしないので、何が原因なのか分からないまま放置されてしまいます。農薬や食品添加物では、このようにすぐに変化が起きない問題が含まれているように思われます。
なぜそう思うのか、その理由として、また前節で挙げた、認知機能に対する試験の不十分さと関連するかもしれない事象として、発達障害の子どもが増えていることに注目します。
ここからしばらくは、農薬についての話になります。現在日本では、発達障害のある子どもが、通常の学級に在籍して学びながら、一部は別室で指導を受ける「通級」という指導方法が行われています。その通級を受ける児童数の推移を文部科学省がまとめています。そのグラフによると、通級を受ける児童数は、平成5年の1万2千人に対して、令和元年には10倍以上の13万人に増加しています。
文部科学省公開資料「令和元年度 通級による指導実施状況調査結果について」(https://www.mext.go.jp/content/20200317-mxt_tokubetu01-000005538-02.pdf)
どうしてこれほど増加しているのでしょう。以前は発達障害は遺伝的な要素が大きいと言われていました。ただ遺伝であればこれほど急速に増加することは考えにくいです。そこで気になるのが、平成5年に登録され、ここ20年ほどで広く使われるようになった「ネオニコチノイド系農薬」です。
奥野修司著,本当は危ない国産食品,新潮新書,2020,p.79
このグラフは、OECD主要国における「自閉症」の有病率と農地面積あたりの農薬使用量をまとめたものです。農薬使用量の上位4カ国と、自閉症の有病率が、順位も含めて一致しています。この結果だけでは「農薬が自閉症の原因になる」とは言えませんが、農薬と自閉症に何らかの関係があることは想像できます。
ネオニコチノイド系農薬は、神経伝達を阻害するタイプの農薬です。昆虫の持つ神経伝達回路を対象としていますが、同じ回路を人間も持っていることから、人間への影響も懸念されています。2012年の論文1)では、人間の健康、特に発達中の脳に悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、発達障害の子どもが増えていることにも関連があるように思われます。
農薬が発達障害を引き起こしているとしたらとても大きな問題です。海外では、ネオニコチノイドが使われ始めた1990年代に、使用された地域のミツバチが大量に減少したことから、ネオニコチノイドの規制が進みました。ただ日本は逆に規制が緩和されています。世界的に見ても日本はネオニコチノイドを多く使っている国となります。(参考「有機農業ニュースクリップ」http://organic-newsclip.info/nouyaku/regulation-neonico-table.html)
下の表は2023年2月時点での、ネオニコチノイド(11種類のうちの2種類:クロチアニジン、チアメトキサム)のEUの残留農薬基準値(MRLs)です。
農林水産省「EUにおけるクロチアニジンとチアメトキサムの残留農薬基準値(MRLs)引き下げについて(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/EUMRL.html)」より抜粋
EUと比較すると、日本はとても規制が緩いことが分かります。
以上のことから、農薬はADHDや多動などの発達障害と関連があることが懸念されます。また神経伝達を阻害する作用を持つため、体に対してどのような影響があるか未知数です。摂取してすぐに体調に変化を及ぼすことはなくても、長期間取り続けることで何らかの悪影響が出てくる可能性も十分に考えられます。
また、日本はネオニコチノイドの基準値が緩いことも気になります。注意して避けないと、私たちの体に多く入ってきてしまいます。家庭料理で気をつけていても、外食や加工食品などを通して入ってくることも考えられます。
農薬や食品添加物をできるだけ控えるようにしよう
前章は主に農薬について見てきましたが、農薬と食品添加物の安全性試験は、どちらもOECDのガイドラインに従っています。つまり食品添加物も農薬と同様の試験が行われていると考えられるため、食品添加物も農薬と同じように注意する必要があります。
私たちの体への影響を確認する安全性試験ですが、動物実験しかしていないこと、認知機能の試験内容に不十分な感じがあること、農薬と発達障害には関連があるかもしれないこと、などから、十分に信頼できるものではないと思います。
これらのことから、農薬と食品添加物は安全であるとは言い切れないと、私は思っています。数十年に渡り取り続けると健康に何らかの影響が生じる可能性があるように思います。
食材は私たちの体を作る最も基本的なものです。それは健康にとって、最も気をつけるべき所です。そのため、安全性に疑問のある農薬と食品添加物を含んだ食材は、できるだけ控えるべきと思います。
1)Junko Kimura-Kuroda, Yukari Komuta, Yoichiro Kuroda, Masaharu Hayashi, Hitoshi Kawano (2012) Nicotine-Like Effects of the Neonicotinoid Insecticides Acetamiprid and Imidacloprid on Cerebellar Neurons from Neonatal Rats , Plos One, Feb.2012, Vol.7, Issue2, e32432(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0032432)
参考文献:奥野修司著, 本当は危ない国産食品, 新潮新書, 2020, 203p.