インフルエンザに感染しないためのポイント

今年の冬は寒いですね。例年よりも冷え込みが強いように思います。そのせいか、インフルエンザがとても流行しています。インフルエンザにはできるだけかかりたくないですが、それにはどうするのが一番良いのでしょうか。

これまでは当たり前のように、ワクチン接種を勧められていました。ですが、ここ数年ではトーンが変化して、「ワクチンは感染防止というよりは、重症化防止の効果があります」ということをよく耳にするようになりました。この辺りの変化もちょっと気になりますし、そもそもワクチンは感染防止の効果はあるのでしょうか。

以前に、インフルエンザがどのようにして治っていくのか、という内容で記事(インフルエンザはなぜ治るのですか)を書きました。その続きとして(テーマ的にはこちらを先に書けよ、というところだと思いますが)、今回は、インフルエンザに感染しないためにどのようなことに気をつけたらいいのか、について、あくまでも私自身の見解になりますが、免疫学を元に考えてみました。

(その結果、インフルエンザに感染しないためのポイントが分かってきたのですが、残念ながら確実な方法は、全ての人にお勧めできるものではないように思います。ただ、インフルエンザの感染のプロセスと、それを妨げる免疫の仕組みについて、ご紹介するのは意味があると思ったので、記事にまとめてみました。それらを踏まえて、読んでいただけますと嬉しいです。)

目次

インフルエンザに感染しないためのポイント

早速結論ですが、インフルエンザに感染しないためにどんなことに気をつけたらいいのでしょうか。それは、次の三つになります。

  • 適度にウイルスに触れておく(過度に避けることを控える)
  • 喉を潤しておく(部屋の加湿、水分補給)
  • 体調を整えて免疫力を落とさないようにする

結局のところ、このあたりになると思います。

私が調べた中で、インフルエンザにかからないための最も確実な方法は、「軽い感染を繰り返しておく」になります。なぜかというと、軽い感染を繰り返すことで、感染防御に重要な役割を担う、気道粘膜の免疫系が活性化されるからです。

ただ実際は、「軽く感染する」というところがとても難しいと思います。軽い感染が、本格的な感染につながってしまうことも十分あり得るからです。この辺りが、手放しで多くの人にお勧めできない点になります。

そのためひとまずは、過度にウイルスを避けることをせずに、適度に触れておくことを、一つのポイントとして挙げています。

そしてそれに加えて、気道粘膜の免疫系が十分働くためには、喉が潤っていることや、全身の免疫系がきちんと働いていることも大切となります。これらが上に挙げた二つ目、三つ目のポイントになります。

では、このあたりのことを、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

感染を防ぐ体の働き

感染のプロセス

感染を防ぐ体の働きの前に、まず、インフルエンザウイルスがどのようにして、私たちに感染するのかについて見ていきます。

インフルエンザウイルスは私たちの体のどこに感染するのかというと、それは気道です。気道は鼻・口から喉、気管、気管支までの管のような器官で、口や鼻から肺まで空気を送る役割を担っています。インフルエンザウイルスは特に鼻腔・口腔から喉頭までの気道(上気道)の細胞に入り込み、細胞を乗っ取って自分のコピーを作りだします。これが感染です。でも、いきなりウイルスが気道の細胞に入り込むわけではありません。

なぜなら、気道にはいくつかの防御機構が備わっているからです。

感染を防ぐ気道の防御機構

気道の防御機構は、大きく分けて二つあります。

一つ目は、気道粘膜です。

気道の細胞は線毛細胞と呼ばれ、表面が線毛と呼ばれる毛で覆われています。そして、毛の上は粘液で覆われた粘膜層となっています。ウイルスが気道までやってきても、細胞に入る前に、この粘膜にくっつくことになります。

この気道粘膜は、ウイルス感染を防ぐ物理的な壁となります。ウイルスが粘膜についた段階でこれを除去できれば、感染を防ぐことができるからです。

そのためには、粘膜が十分潤っていることが必要となります。

粘膜が乾燥していると、細胞表面の毛に十分に粘液が行き渡らなくなり、粘膜の隙間ができてしまいます。すると、ウイルスをしっかり捕まえることできなくなります。

これに対して、粘膜が潤っていれば、鳥餅のようにウイルスを捉えることができます。捉えた後は、線毛が連続的に動いて、ウイルスを気道の外へと追い出します。

そして、気道粘膜を潤しておくためには、加湿器で部屋の湿度を上げておいたり、定期的に水分を摂って、喉を潤しておくことが重要になります。

二つ目は、粘膜に待機している免疫細胞です。

粘膜には、私たちの体を守る免疫細胞が待機しています。粘膜に入ってきたウイルスにくっついて、ウイルスが細胞に入れなくしたり、直接ウイルスを食べて除去したりしてくれます。

では、気道粘膜にはどのような免疫細胞がいるのでしょうか。ここからは、それらについて詳しく見ていきます。

気道粘膜の免疫細胞

前に書いた記事(インフルエンザはなぜ治るのですか)で、私たちの体の免疫細胞についてまとめました。免疫系の基本的なところは、そこで書いた通りですので、先にそちらを読んでいただくと、ここから先の内容が分かりやすいと思います。

先の記事で書かれている内容もそうですが、一般に免疫の話で説明される内容は、体の内部で繰り広げられる、免疫系の仕組みです。今回注目するのはもう少し体の外に近い、気道粘膜での免疫系の話です。

全身の免疫系と同じく、気道粘膜にも、自然免疫と獲得免疫の二種類の免疫細胞が存在します。

免疫の種類

自然免疫:マクロファージ、好中球など

獲得免疫:IgA抗体、細胞性免疫

自然免疫

自然免疫は、全身の至る所にいて、外から入ってきた異物を食べて分解する免疫細胞です。自然免疫にはマクロファージや好中球があり、マクロファージは気道粘膜にも多く存在しています。好中球は普段は少ないですが、ウイルスなどに感染しかけると大量に押し寄せてきます。

これらは、基本的に特定のウイルスや細菌を狙って攻撃するわけではなく、目の前の異物をどんどん食べていくタイプの免疫細胞です。そのため、インフルエンザのように早く狙い撃ちで除去しなくてはいけないウイルスに対しては、自然免疫だけではちょっと力不足です。

実際には、次の獲得免疫と協力してウイルスを除去していきます。

獲得免疫

獲得免疫は、何かの病気にかかった後に、そのウイルスや細菌に特化した除去作用を、体が獲得するタイプの免疫です。

IgA抗体

獲得免疫としては抗体がよく知られています。

先の記事で紹介した通り、体の内部の免疫系では、抗体の中でも中心的な役割を果たすIgG抗体が(先の記事で紹介している抗体は、IgG抗体です)、ウイルスに付着して感染させないようしたり(中和作用)、マクロファージに貪食を促したりして(オプソニン効果)、ウイルスの除去を進めます。

一方気道粘膜では、IgG抗体とは形の違うIgA抗体と呼ばれるものが、抗体を作る細胞から産生されます。このIgA抗体はウイルスに付着して、ウイルスが細胞に入るのを邪魔して感染を妨ぎます。IgA抗体で特徴的なのは、ウイルスの型が少しぐらい違っていても、きちんと働いてくれる点です。

IgG抗体は、ウイルスの変異によって、その機能を十分に発揮できなくなるという弱点があります。中和作用はほとんど働かず、オプソニン効果も限定的となります。そして抗原原罪のため、入ってきたウイルスの型に合ったIgG抗体はあまり作られません。このため、インフルエンザのように変異を繰り返すウイルスに対しては、思ったような働きをすることができないのです。

抗原原罪とは

抗体は優れた感染防御作用を持っていますが、その働きを十分に発揮できなくなる、困った性質を持っています。それが抗原原罪です。

抗原原罪とは、私たちの体にウイルスが入ってきた時に、そのウイルスの型に合わせた抗体が作られるわけではなく、かつてその病気に初めてかかった時のウイルスの型に対応した抗体が作られる、という免疫の仕組みです。

これはウイルスが入ってきた場合でも、ワクチンを接種した場合でも同様です。毎年インフルエンザのワクチンを打っても、体の中で作られているのは、子供の頃に初めてインフルエンザにかかった時のウイルスに対応した抗体なのです。

抗原原罪のため、インフルエンザのように頻繁に変異するウイルスに対しては、抗体の働きは限定的となってしまいます。

実は、IgA抗体にも抗原原罪があります。ですが、IgA抗体の場合は少しぐらい型が違ってもきちんと働いてくれます。ですので、気道粘膜でインフルエンザウイルスを除去するためには、IgA抗体をすぐに作れるように、準備しておくことが一つのポイントとなります。

細胞性免疫

細胞性免疫はウイルスではなく、ウイルスに感染した細胞を除去する免疫細胞です。完全に感染してしまった状態では、ウイルス除去よりもウイルスに感染した細胞を除去することが、回復への道筋となりますが、それは感染するかしないかといった、水際の状態でも同様です。

細胞性免疫は、一度感染したウイルスの情報を記憶していて、再度そのウイルスに感染した場合に、感染細胞を狙い撃ちで除去してくれます。しかもウイルスの型が少しぐらい違っていても大丈夫です。細胞性免疫はIgA抗体と同じく、変異しやすいウイルスに対しても対応してくれる、とても頼もしい免疫細胞です。

そして細胞性免疫の一部は、気道粘膜に留まり続けます。これは組織常在性メモリーT細胞(Trm)と呼ばれます。感染防御の最前線に留まり、新たにウイルスが入ってきた時にすぐに対処してくれる、さながら国境警備隊のような存在です。

このTrmの働きはとても効果的で、IgA抗体や自然免疫でウイルス感染を防げなかった場合でも、すぐにTrmが立ち上がってくれれば、軽い感染のみで回復することが可能です。

IgA抗体を準備しておくことに加えて、このTrmを活性化しておくことが、インフルエンザに本格的に感染しないためには、とても重要なポイントとなります。

インフルエンザに感染しないために

このように見てくると、インフルエンザに感染しないためには、どうすればいいかが見えてきます。

一つは、先に書いたように、気道粘膜を潤しておくことです。これはそれほど難しいことではないと思います。そして当然のこととして、体調を整えて免疫力を落とさないようにすることも大切です。

それらに加えて、気道粘膜の免疫細胞については、

  • IgA抗体を準備しておく
  • Trmを活性化しておく

の二つが重要になります。

では、これらに対してはどうすればいいでしょうか。

実は、これらを一気に達成する方法があります。それは、「インフルエンザに軽く感染しておく(ちょっと感染しかけ、を繰り返しておく)」ことです。

繰り返しの感染でIgA産生細胞が維持されやすい

なぜかというと、ウイルスに感染することで、IgA抗体を産生する細胞が、粘膜に維持されるからです。1)

通常ウイルスに感染すると、抗体を産生する細胞が準備されます。この抗体産生細胞は、回復してしばらくすると自然に無くなります。(一部は記憶細胞として残る)

ですが、繰り返しウイルスに遭遇して軽く感染していると、IgA抗体産生細胞が粘膜内に維持されるようになります。そして、次にウイルスが入ってきた時に、すぐに対処してくれるのです。

このように、日頃からウイルスに遭遇して、軽い感染を繰り返しておくことで、IgA抗体を産生する細胞を粘膜内に維持することができるのです。

軽い感染によってTrmの働きが活性化される

Trmについても同様のことが言えます。通常の細胞性免疫は、ウイルス感染から回復した後、血液中を巡り全身を回っているのですが、Trmは気道粘膜というウイルス感染の最前線に留まって、目を光らせています。この気道粘膜のTrmを活性化しておくことは、ウイルス感染防御にとって、とても大きな意味を持ちます。

そしてその最も確実な方法が、ウイルスに軽く感染しておくことです。

Trmは再感染によって、その機能が高く維持されることが研究で示されています。2)それは軽い感染であっても感染防御に十分な反応をしてくれると考えられています。

つまり、Trmの働きを活性化するためにも、ウイルスを過度に避けることなく、軽い感染(ちょっと引きかけ)を繰り返しておくことがポイントとなります。

軽い感染を繰り返しておくことで本格的な感染を防ぐことができる

このように、気道粘膜の免疫細胞を強めておくためには、軽い感染を繰り返すのが効果的です。

ですが、「軽い感染」というのがハードルです。そもそも感染の程度をコントロールするのは、意識的にできることではないからです。

差し当たり、私たちにできるのは、適度にウイルスに触れておくことと、本格的に感染しないように免疫力を維持しておくことになると思います(加えて、喉を潤しておくことも)。これらを意識することで、気道粘膜の免疫系が強められるのではないか、と考えています。

あくまでも推測ですが、お医者さんがインフルエンザに罹った、という話はあまり耳にしないことからも、適度にウイルスに接触するのは、意味があることのように思います。お医者さんはインフルエンザの患者さんと接触する機会が多く、ウイルスを適度に浴びて、軽い感染を繰り返しているのかもしれません。

ワクチンは感染防御の効果は低い

ここまで読んでくると、次のような疑問が湧いてくるのではないでしょうか。それは「ワクチンは効かないの?」という点です。

結論から言うと、ワクチンは感染防御にはあまり効果はないようです。

なぜなら、ワクチンが誘導するのは、ウイルス感染の最前線から離れた、血液中のIgG抗体だからです。

これは、国境を超えて外敵が攻めて来ようという時に、国境から離れた内地に兵士を配置するようなものです。感染防御の効果が高いはずがありません。しかも抗原原罪のため、作られる抗体は、入ってきたウイルスをやっつける効果もそれほど高くないのです。優秀な兵士かというとそうでもない、といった状態です。

また、ワクチンが誘導するのはIgG抗体のみです。感染細胞除去によってウイルス削減に大きく貢献する細胞性免疫を誘導することもありません。少し頼りないように感じます。

ワクチンが効果を発揮するのは、おそらくここ数年で言われているように、「重症化を防ぐ」という点になるように思います。ただ、私が免疫について調べた限りでは、積極的に防いでいるというよりは、「重症化を防ぐのに間接的に貢献しているよ」という感じだと思います。

ただ、ご高齢の方や、持病を持っている方など、重症化することを避ける必要がある方は、ワクチンを接種する意味があると思います。

現在のインフルエンザワクチンの位置付けは、この辺りになるのではないでしょうか。

この点を改善した、粘膜の免疫系を強めるワクチンの開発も進んでいるようです。その辺りも今後注目していきたいと思います。

まとめ

インフルエンザに感染しないためのポイントについて考えてきました。

  • 適度にウイルスに触れておく(過度にウイルスを避けることを控える)
  • 喉を潤しておく(部屋の加湿、水分補給)
  • 体調を整えて免疫力を落とさないようにする

これらが重要になると思います。

先にも書きましたが、理想は「軽い感染」を繰り返すことです。ですが、これは意識的にできることではないので、差し当たり、上記の三つをポイントとして挙げています。

これら三つのうち、最初の二つはそれほど難しくないと思います。結局、日頃から意識するべきなのは、体調を整えて免疫力を落とさないようにすること、です。

そのためには、生活リズムの調整、適度な運動、過度なストレスを避ける、などに加えて、東洋医学の処置を定期的に受けるのも良いと思います。

体調管理に十分気をつけて、インフルエンザに負けずに、寒い冬を乗り切りましょう。

1) Kei Haniuda, Natalie M. Edner, Yuko Makita, et al. 
Mucosal viral infection elicits long-lived IgA responses via type 1 follicular helper T cells. 
Cell Volume 188, Issue 24, P6774-6790.E21, November 26, 2025
https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(25)00812-8

2) Natalija Van Braeckel-Budimir, Steven M Varga, Vladimir P Badovinac, John T Harty
Repeated Antigen Exposure Extends the Durability of Influenza-Specific Lung-Resident Memory CD8+ T Cells and Heterosubtypic Immunity
Cell Rep. 2018 Sep 25;24(13):3374-3382.e3. doi: 10.1016/j.celrep.2018.08.073.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30257199/

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