寒い日が続きます。毎年冬になるとインフルエンザが流行するので憂鬱です。皆さんもかからないように、気をつけておられると思います。
私たちの体は、インフルエンザのような感染症にかかっても、免疫系の働きによって回復していきます。当たり前のようにそう感じていますが、実際のところは、どのように回復していくのでしょうか。
なんとなく「抗体ってやつがやっつけてくれるんでしょう」という風に思われている方も多いと思います。ですが、最新の免疫学を紐解いて、それに基づいて考えると、どうもそうではないようなのです。
今回はインフルエンザがどのようにして治っていくのかについて、免疫学で示されている事実を元に、考えてみたいと思います。
(この文章では、免疫のメカニズムについて分かりやすいように、一部簡略化しています。)
インフルエンザからの回復を進めるもの
回復のために必要なこと
早速、結論の部分ですが、インフルエンザが治るために、結局何が起こればいいのでしょうか。それは次のようになります。
- ウイルス感染細胞が除去される
「ウイルスを取り除くのがメインじゃないの…」と思われた方もおられると思います。ですが実際は、感染が成立した状態では、ウイルス自体がフラフラと体の中を漂っていることは、ほとんどないようです。なぜなら、ほとんどのウイルスが、私たちの細胞に入り込んでいるからです。
ウイルスは私たちの細胞に入り込み、細胞を乗っ取ります。乗っ取られた細胞は感染細胞となります。ウイルスは感染細胞のタンパク質を合成する働きを利用して、自分のコピーを大量に作っていきます。そしてコピーされたウイルスは、感染細胞から外に出て、またすぐ近くの細胞に入り込みます。このようなことを繰り返して、ウイルスは増殖していくのです。
この状態が続くと重症化していくわけです。そうなると困るので、私たちの体はウイルスの侵攻を阻止しようとします。そのためには上記のように、「ウイルス感染細胞を除去する」ことが重要になります。
回復を進めるもの
では、何が感染細胞をやっつけて、インフルエンザからの回復を進めているのでしょうか。それは以下のようになります。
- 細胞性免疫による感染細胞の除去
難しい言葉が出てきましたが、これが体の中で起こって、インフルエンザは治っていきます。
ここからは、インフルエンザが治る様子をもう少し詳しく見ていきます。その前に、まずは私たちの体の免疫について説明したいと思います。少し難しいのですが、どうぞお付き合いください。
免疫の種類と役割
私たちの体の免疫には、大きく分けて自然免疫と獲得免疫の二つがあり、更にその働きを補う補体があります。
自然免疫:マクロファージ、好中球など
獲得免疫:抗体、細胞性免疫
補体:C1〜C9という血液中の酵素
自然免疫
異物を除去:無差別に異物を食べて分解
(抗体や補体のオプソニン効果で特定のウイルスなどを狙い撃ちする)
自然免疫とは、私たちの体の至る所にあって、外から入ってきた異物を無差別に食べて分解する掃除屋さんです。マクロファージや好中球などがこれにあたります。
自然免疫は、特定の細菌やウイルスを攻撃せず、目の前の異物をどんどん食べていきます。これは、インフルエンザウイルスのように、早く集中的に攻撃しなくてはならないものに対しては、あまり効率の良い攻撃の仕方ではありません。
ですが、後で説明するように、抗体や補体がウイルスや感染細胞に付着すると、それが目印となり真っ先にそれらを攻撃するようになります。この抗体や補体の目印効果をオプソニン効果と呼びます。
自然免疫はオプソニン効果によって、インフルエンザに対しても頼もしい防御機構となります。
獲得免疫
獲得免疫は、一度何かの病気にかかった時に、その病気に特化した攻撃手段を体が獲得する、というタイプの免疫です。カスタマイズされた攻撃手段なので、獲得免疫が働きだすと(通常は病気になってから5〜7日後)すぐに回復していきます。
また一度獲得した攻撃手段は免疫系が記憶していて、もう一度同じウイルスなどが入ってきた時にすぐに対処してくれます。しかもその記憶は数十年もつものもあり、とても頼もしい免疫です。獲得免疫には、抗体と細胞性免疫の二つがあります。
抗体
中和作用:ウイルスに付着して、感染力を無効化する
オプソニン効果:ウイルス・感染細胞に付着して目印となり、これらの除去を進める
補体活性化:補体の働きを活性化し、ウイルス・感染細胞の除去を進める
(いずれもウイルスの型が異なると効果が低くなる)
抗体はウイルスなどの表面に付着して、ウイルスの感染力を無効化する働きがあります。抗体が付くとウイルスが細胞に入れなくなるのです。これが抗体のメインの働き(中和作用)です。
インフルエンザのような病気になると、かかってから5〜7日後に、免疫系が抗体を作り出します。作製された抗体はウイルスに付着して、中和作用で感染が広がらないように防御します。その間に自然免疫や、後に説明する細胞性免疫によって、ウイルスや感染細胞を除去するのです。
このようにして病気から回復した後、免疫系がウイルスの特徴を記憶します。そして、次に同じものが入ってきた時、素早く抗体を作製して、新たな感染を防ぐのです。
この中和作用は強力な防御作用ですが、一つ弱点があります。それは抗体とウイルスの型が合わないと、効果がほとんどなくなることです。変異して型が変化したウイルスが入ってくると、抗体がウイルスに付くことができず、中和作用を発揮できなくなるのです。
よく「インフルエンザの型が違って…」という話を耳にすると思いますが、これはウイルスが変異したために、中和作用が十分働かなくなることを指しています。
変異の仕方にもよりますが、インフルエンザウイルスの型で「H○N△」という分類を見たことがあると思います。この○の部分が異なると、中和作用はほとんど無くなると言われています。更に○と△が同一で、同じ型に分類されていても、変異の仕方によっては、中和作用が低下する場合もあります。
次にオプソニン効果ですが、これは自然免疫のところで説明した通りです。抗体がウイルスや感染細胞に付着することで目印になり、マクロファージなどに攻撃を促す強力な防御作用です。
ただ、オプソニン効果も中和作用と同様の弱点があります。オプソニン効果も、ウイルスの型が違う場合は、抗体がウイルスや感染細胞に付着しにくくなり、効果が低下してしまうのです。
補体活性化については、抗体がウイルスや感染細胞に付着することで、補体の働きを活性化する作用です。
後にも説明しますが、補体は、抗体と同様に、ウイルスや感染細胞に付着して、オプソニン効果によってマクロファージなどに攻撃を促す機能を持っています。そして、その能力が十分発揮されるのは、抗体がウイルスや感染細胞に付着している時です。ですので、こちらもウイルスの型が違っている場合には、大きな効果は望めません。
オプソニン効果と補体活性化については、大きな変異でなければ、変異によってほとんど効果がなくなる、ということはないようです。少し型が違っても、抗体がウイルス表面に付着することができれば、少し効果を期待できます。ただその効果は、あくまでも補助的になるようです。
このように、抗体は、ウイルスの感染力の無効化や、補体とともにオプソニン効果によって、ウイルスや感染細胞の除去を進める能力を持っていますが、ウイルスの型が違うと、いまいち本来の力を発揮することが出来ないのです。
「でも、変異したウイルスが入ってきても、結局はそれに合った抗体が作られるのでしょう。だったら問題ないじゃない。」と思われたかもしれません。ところが、そうはいかないのです。
抗体の大きなジレンマ 抗原原罪
抗体はいくつかの強力な防御作用を持っていますが、インフルエンザのように変異を繰り返すウイルスに対しては、その効果を十分に発揮できない、というジレンマがあります。それが抗原原罪です。
実は、私たちの体にウイルスなどが入ってきた時に作られる抗体は、人生で最初にその病気にかかった時の抗体なのです。変異したウイルスが入ってきた場合、変異した型に対する抗体が作られるわけではなく、かつて子供の頃に初めてかかった時の型の抗体が優先的に作られるのです。1)
つまり、毎年変異するインフルエンザのようなウイルスに対しては、抗体の防御作用は効果があまり期待できないのです。
初めてかかった時のインフルエンザウイルスが、今回と同じ型であれば、抗体が頼りになります。ですが、そうでなければ、抗原原罪がある以上、抗体の活躍の場はかなり限定的となってしまいます。その場合インフルエンザからの回復には、次の細胞性免疫がポイントとなります。
細胞性免疫
ウイルス感染細胞の除去
(ウイルスの型が違っても対応してくれる)
細胞性免疫は、ウイルスではなく、ウイルス感染細胞の除去を強力に進めます。細胞性免疫には、ナチュラルキラー細胞、キラーT細胞などがあり、感染細胞を見つけて攻撃、排除します。
また細胞性免疫の一部はメモリー細胞となり、一度攻撃したウイルス感染細胞の特徴を記憶しています。細胞性免疫が頼りになる点は、ウイルスの型が少しぐらい違っても対応してくれる点です。インフルエンザのように毎年変異するウイルスであっても、大きな変異がなければ、細胞性免疫はしっかりと働いてくれます。
このように細胞性免疫は、その年生まれた新しいウイルスが入ってきても、大きな変異がなければ素早く対処して、病気の進行を妨げ、回復を進めてくれます。
補体
病原微生物を除去:病原微生物に付着、細胞膜を破壊(インフルエンザの場合は付着のみ)
オプソニン効果:マクロファージなどに攻撃を促す
(抗体がウイルスなどに付着すると、補体もそれらに付着しやすくなる)
補体は細胞ではなく、血液中を流れる酵素です。病原微生物や感染細胞に付着して、その膜を溶かす働きを持っています。ただ、インフルエンザウイルスの場合は、付着はしますが、破壊することはできないようです。
通常は、自然免疫と同じく無差別に病原微生物に付着します。インフルエンザの場合には、これは効率的な除去作用とは言えません。ですが、抗体がウイルスや感染細胞に付着したときは、補体もウイルスや感染細胞に付着しやすくなり、これらの除去作用を加速します。
インフルエンザの場合は補体だけではウイルスを破壊することはできませんが、補体の持つオプソニン効果でマクロファージなどに攻撃を強く促します。これによってウイルスや感染細胞を効果的に除去していきます。
インフルエンザからの回復
難しい免疫細胞の話はここまでで、ここからは、それらを踏まえて、どのようにインフルエンザが治っていくのかを考えてみます。
回復の過程
感染が成立し、寝込むような発熱や、ひどい咳などの症状が出てきている状態では、ウイルスは私たちの細胞に入り込んで、せっせと自分のコピーを作り出しています。
この状態で、インフルエンザの回復のためにしなければならないことは、感染細胞の除去となります。では、私たちの体はどのようにして、感染細胞を除去していくのでしょうか。
その様子について、ウイルスの変異の程度に分けて考えてみます。なぜなら、免疫、特に抗体の働きは、ウイルスの変異に大きく影響を受けるからです。
変異が全くない場合
まず、変異が全くない場合はどうでしょうか。インフルエンザは毎年変異しますので、正直なところ、このケースは初めてインフルエンザにかかる場合になると思います。
抗体のところに書いたように、初めてインフルエンザにかかった場合は、5〜7日後に抗体が作製されて、抗体と補体によるオプソニン効果と、細胞性免疫で感染細胞を除去して回復する、という経過を辿ると思います。
そして、それ以降に同じウイルスが入ってきた場合は、おそらく感染することはありません。
少し変異している場合
次に少し変異した場合を考えてみます。初めてかかったインフルエンザの型と、「H○N△」の○と△が同一で、同じ型に分類されますが、少し変異しているケースです。
この場合は、まず、変異の程度により中和作用が低下します。そして、抗体と補体によるオプソニン効果も低下しますが、効果がなくなることはありません。ただ、感染細胞除去のメインは細胞性免疫による攻撃になると思います。
大きく変異している場合
大きく変異している場合はどうでしょうか。初めてかかったインフルエンザの型と、「H○N△」の○と△が異なるケースなどです。
この場合は、抗体と補体の活躍の場はかなり制限されます。感染細胞の除去は細胞性免疫の働きに依存することになります。
更に大きく変異したウイルスが入ってきた場合は、免疫は新しい病気と認識して、新たに抗体を作る可能性もあるようです。3)この場合は、初めてインフルエンザに感染した時と同じ経過を辿ることになると思います。
回復の主役は細胞性免疫
こうやって見てくると、インフルエンザ回復のメインプレーヤーは抗体ではなく、細胞性免疫ということになると思います。「抗体が活躍してくれている」というイメージがあるのですが、実際はそうでもないのです。
抗体は優れた防御作用を持っていますが、インフルエンザのように変異を繰り返す病気の場合、その能力が発揮される機会は限られるのです。
細胞性免疫を鍛えるためには
細胞性免疫がしっかりと働いてくれると、インフルエンザのような感染症から早く回復できます。また、細胞性免疫は病気を記憶してくれ、変異した型にも対応できるので、ウイルスの型によらず感染の初期からの進行を抑えてくれる効果も期待できます。
では、細胞性免疫を鍛えておくためにはどうすればいいでしょうか。
それは、普段からウイルスに触れておくことがポイントのようです。発熱などのしっかりした感染ではなく、鼻水・咳・少しだるい、といった程度の軽い感染でも、細胞性免疫はその病気の情報を記憶してくれる、という研究結果2)もあります。
つまり、いつも体調を整えて、本格的にインフルエンザにかからないように気をつけながら、過剰にウイルスを避けるようなことをせずに(適度にウイルスに触れながら)社会生活を営む、というのが細胞性免疫を鍛えるための選択になると思います。
まとめ
今回はインフルエンザがどのように治っていくのかについて、免疫学で言われていることを元に、考えてみました。
そこでは、一般に言われているような抗体の活躍の場はあまりなく、細胞性免疫の方が主役として働いていることが分かりました。
そして細胞性免疫を鍛えておくためには、普段からある程度ウイルスに触れておくことが大切なようです。そのためにも日頃から体調を整えておくことは重要だと思います。
体調管理をしっかりと行い、インフルエンザに負けず、元気に冬を乗り切りましょう。
参考文献:mRNAワクチン中止を求める国民連合 著,mRNAワクチンの罪と罰,2025
1) Jin Hyang Kim, Ioanna Skountzou, Richard Compans, Joshy Jacob
Original antigenic sin responses to influenza viruses
J Immunol. 2009 Sep 1;183(5):3294-301. doi: 10.4049/jimmunol.0900398. Epub 2009 Jul 31.
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19648276/)
2) Carolien E van de Sandt, Joost H C M Kreijtz, Guus F Rimmelzwaan
Evasion of Influenza A Viruses from Innate and Adaptive Immune Responses
Viruses. 2012 Sep 3;4(9):1438–1476. doi: 10.3390/v4091438
(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3499814/)
3) Jared Feldman, Ana Sofia Ferreira Ramos, Mya Vu, Daniel P. Maurer, Victoria C. Rosado, Daniel Lingwood, Goran Bajic, Aaron G. Schmidt
Human naïve B cells recognize prepandemic influenza virus hemagglutinins
SCIENCE IMMUNOLOGY, 24 Jan 2025, Vol 10, Issue 103, doi: 10.1126/sciimmunol.ado9572
(https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.ado9572)
