鍼灸を含めた東洋医学の治療は、症状だけにスポットを当てるのではなく、体全体を正しい状態に導くことを目的としています。そのための治療方針に、大きく分けて二つの方法があることを、ご存知でしょうか。それらは補法(ほほう)、瀉法(しゃほう)と呼ばれます。この文章では、補法と瀉法について、簡単に紹介したいと思います。
補法は体に必要なものを補う治療法
まずは補法ですが、補法はその名の通り、補う治療法です。何を補うのかというと、体に必要なものを補うのです。
何か気になる症状があったり、体調が思わしくない時は、体のどこかの部分の働きが低下しています。こういった時に、補法では、その部分の働きを高める食べ物や、生薬を与えていきます。それによって体の働きを整えて、症状を抑えていくのです。
具体的には、薬膳ならば食材を、漢方であれば生薬を選んで与え、鍼灸や推拿(すいな:伝統的な整体法)では適切な経絡(けいらく)やツボに刺激を入れることで処置していきます。
補法は処置がソフトなことが特徴です。体への負担が少なく、体力がない方でも安心して受けることができます。一方、効果が出るまでに時間がかかるという点もあります。ただ補法は体への負担が少ないので、効果が出るまで長期間続けることが可能です。気長に続けることで少しずつ効果を出していくのです。
瀉法は体に害を及ぼすものを排出させる治療法
これに対して瀉法は、体に良くないもの、害を及ぼすものを、体から排泄させる治療法です。
どんなものを排出させるのかというと、停留している便、血の塊、病理産物、などです。また、東洋医学の時代には認識されていなかった、病原性の細菌やウイルスも、瀉法の対象になるように思います。瀉法では、便を排泄させる、炎症を抑える、といった作用を持つ食べ物や生薬を与え、体に悪影響を与えるものを体の外へと排出させます。それによって体の負担を減らして、体調を整えていくのです。
こちらも薬膳ならば食材を、漢方ならば生薬を選び、鍼灸や推拿では経絡とツボを選んでいきます。また、現代医学の抗生物質や抗ウイルス薬、手術で腫瘍を取り除くといった手法も、瀉法の一種と考えてもいいと思います。
瀉法の特徴は効果がすぐに現れることです。体に害を及ぼすものがなくなるので、比較的早く症状が軽くなります。ただ瀉法の処置は体への負担が大きいという問題があり、体力がない人にとっては逆効果になることもあります。長期間続けるのも難しいので、体力と相談して、ここぞというときに選ぶのがいいと思います。
まとめ
現代医学と同じく、東洋医学においても、治療の方針というものがあります。その例として補法と瀉法を簡単に紹介しました。どちらも特徴があり、状況に合わせて利用するのがいいと思います。
次回の記事でも、引き続き補法と瀉法について書いていきます。